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現代純文学のおすすめ小説作品まとめ

現代純文学のおすすめ小説作品まとめ

このページでは、当サイト「YOMUDAKE(ヨムダケ)」がおすすめする純文学作品を紹介しています。作品によって異なる角度から繰り広げられる結論のない物語と想い。ぜひお楽しみください。

社会・生き方

目次

ニムロッド

ニムロッド
著者上田岳弘
出版社講談社

あらすじ

会社で仮想通貨のマイニングを任された中本。過去のある選択に苦しむ田久保。そして中本の先輩であり、小説を書く「ニムロッド」。あらゆるものがデジタル化され、単一化していく社会の中で、人はどのように生きるべきなのか。

レビュー

無から生まれ、それに価値を見出すもの。人間を仮想通貨に重ね合わせることで浮かび上がる、存在理由と証。そして、どこかに漂う漠然とした虚無。合理的で単一化された社会のなか、人々は正解に適合しながら生きていく。では、生き方や選択に意味はあるのか。正しさを吐き出すテクノロジーの時代における、人間らしさとは。

ブラックボックス

ブラックボックス
著者砂川文次
出版社講談社

あらすじ

ペダルを踏み込む。車輪は回り、都内のオフィス街を自転車が颯爽と駆け抜けていく。メッセンジャーとして書類を依頼先へ届けるサクマ。かつては自衛官として勤務し、その後いくつもの職を転々とし、今はこの仕事に就いている。現状に大きな不満はない。それでも、日々は淡々と流れていく。どこか噛み合わない感覚。言葉にできない苛立ちが、心の奥でくすぶり続けている。

レビュー

サクマが抱える、決して譲れない「何か」。その内側で燃え続けるものは、夜に灯りをともす人々の見えない営みと重なり合い、姿は見えずとも確かに存在する違和感として積もっていく。もがき続けることの美学と諦め。そしてそれらへの反骨心。自転車の部品のように噛み合えば前に進めるはずなのに、どこかに生じたわずかな歪みがそれを許さない。終わりのない日常の不穏さを噛み締めさせる。

コンビニ人間

コンビニ人間
著者村田沙耶香
出版社文藝春秋

あらすじ

「普通の生き方」に馴染めない36歳の古倉恵子。彼女にとって、マニュアルどおりに動くことで社会の一部になれるコンビニは、唯一自分らしく生きられる場所だった。しかし結婚や就職といった「正しさ」を求める周囲の声に揺れ始める。誰のために生きるのか。「普通」とは何かを問いかける。

ネタバレなしレビュー

コンビニの中では「正しい姿」で存在できる主人公。社会からズレたようで、どこか鋭く、まっすぐな彼女に、気付けば心がざわつく。生きづらさと、どこかの誰かの「普通」に押しつぶされそうな人に読んでほしい。

推し、燃ゆ

推し、燃ゆ
著者宇佐見りん
出版社河出文庫

あらすじ

何もかもが上手くいかない。高校生のあかりは、不器用に日々を生きていた。そんな彼女が心の拠り所としていたのは、アイドル・上野真幸の存在。彼を「推し」として、生活のすべてを捧げていた。ところがある日、真幸が暴力事件を起こし、炎上する。そこからあかりの世界は揺らぎ始め・・・

ネタバレなしレビュー

彼女にとって「推し」は、生きるための北極星のような存在。しかし、事件をきっかけに変化していく推し。置き去りにされるあかり。それでも続く日々。彼女にとっての「推し」とは何だったのか。残されたものは何なのか。考えずにはいられない。

火花

火花
著者又吉直樹
出版社文藝春秋

あらすじ

売れない若手芸人・徳永は、花火大会の営業で先輩芸人・神谷と出会う。破天荒でありながら、自分にはない何かを確かに持つ神谷に惹かれた徳永は、弟子入りを申し込む。やがて、師弟にも似た関係のなかで「お笑いとは何か」という価値観をぶつけ合い、時に宥め合いながら、売れる日を夢見て過ごす。しかし、いつしか二人の間には微かなすれ違いが生まれ、やがて大きな隔たりとなっていく。

レビュー

芸人という職業を通じて描かれるのは、創作に伴う苦悩、孤独、痛み、そして諦め。そして、自分にはない指針を持つ人物への憧れと同時に抱く軽蔑。その相反する感情が交錯する中でも輝き続ける人間的な魅力に胸を焦がす。

おいしいごはんが食べられますように

おいしいごはんが食べられますように
著者高瀬隼子
出版社講談社

あらすじ

職場で要領よく馴染む二谷。常に周りから配慮され続ける芦川。仕事に真面目に取り組む押尾。3人の登場人物を中心に繰り広げられる人間模様は「食」を通して描かれる。みんなで食べるとおいしいのか?おいしいものは、みんな嬉しいのだろうか?

レビュー

人が求める「正しさ」に疑問を抱きながらも要領よくやり過ごす男。その疑問は手間と工程をかけた料理よりもカップ麺を好む姿に象徴される。飲み込む者・飲み込めない者・飲み込ませたい者。職場の人間関係はやがて食の在り方と重なっていく。結末にも納得。

鳥打ちも夜更けには

鳥打ちも夜更けには
著者金子薫
出版社河出書房新社

あらすじ

舞台は、楽園と謳われた島の架空の街。新たに着任した町長の下「鳥打ち」という職に就いた3人の青年たちは、美しい花畑と希少な蝶を守るため、日々鳥を殺めていた。だがある日、1人の青年はその職務と、この町の在り方そのものに疑念を抱き始める・・・

レビュー

「正しい」とされるものに無条件で従うことの意味、そしてそこに宿るある種の尊さ。一方で、自らの生き方や仕事に価値と存在理由を見出そうとする行為は、果たしてロマンなのか、それとも無謀なのか。

ポトスライムの舟

ポトスライムの舟
著者津村記久子
出版社講談社

あらすじ

工場で働くナガセは、壁に貼られたポスターに目を留める。そこには「クルージングによる世界一周旅行」とあり、金額は163万円。偶然にもそれは、ナガセが1年間働いて得る年収と同額だった。生命を維持するための労働の対価が世界一周に匹敵することに気づいたナガセは、旅に出るため貯金を始める。久しぶりに、生きている実感を取り戻す旅でもあった。

レビュー

見慣れた世界も、視点を変えればまるで違って見える。背伸びはせず、等身大のまま日々に折り合いをつけながら生きる主人公の姿が心に残る。読後には、思わず鼻歌を口ずさみたくなるような温かさがある。

水たまりで息をする

水たまりで息をする
著者高瀬隼子
出版社集英社

あらすじ

東京で暮らす子どものいない夫婦。2人で穏やかな変わらない日々が続くと思っていた矢先、夫が突然「風呂に入らない」と言い出す。その日を境に、夫は次第に臭いを放ち始め、妻はどう接すればよいのか分からなくなる。水道水を嫌う夫のためにペットボトルの水を用意しても、やがて彼は風呂代わりに雨に打たれるようになり・・・

レビュー

「普通」を求めて川の流れに身を任せてきた妻と、その流れに逆らい始めた夫。ときに夫の方が流れに身を任せて生きているようにも見える。流れに身を委ねる者と抗う者。その差は、「水道水と川の水」「都会と田舎」という対比にも滲む。この波にのまれながらも生きられる者と、そうでない者。そこには、ある種の弱肉強食のような残酷さもある。

掏摸

掏摸
著者中村文則
出版社河出書房新社

あらすじ

金持ちしか狙わない。ターゲットへ自然に近づき、時にはわざとぶつかる。親指は使わず、二本か三本の指で財布を挟んで引き抜く。スリ師である主人公は、その技を糧に日々の生活を成り立たせていた。そんな彼は、スーパーで母親が子どもに万引きをさせる場面を目撃する。見過ごせない彼は・・・。そして、出会ってはならなかった最悪の男と再会することになり、運命の歯車が動き出す。

レビュー

ここでしか生きられない者の諦念と、かすかな反骨心。だが、圧倒的な力の前では支配から逃れられないという残酷な宿命も容赦なく描かれる。闇のなかでもがき続ける姿と、闇と光が常に表裏一体であるという感覚。そこに潜む希望と恐怖は「正しさ」という概念の脆さも突きつけてくる。

平成くん、さようなら

平成くん、さようなら
著者古市憲寿
出版社文藝春秋

あらすじ

舞台は安楽死が合法化された日本。まもなく「平成」という元号が幕を閉じようとしていた。平成元年に生まれた青年・平成(ひろなり)、通称・平成くんは、恋人・愛に自ら安楽死を望んでいることを告げる。平成の終わりとともに自分も終わりたいという突飛な考えに対し、彼女は戸惑いながらも「いいんじゃない」と答えてしまう・・・

レビュー

あらゆるものが便利になり、無機質へと傾いていく時代において、「死」へと向かう「生」の意味はどこにあるのか。主人公も物語も無機質だが、その奥にわずかな人間らしさが。その無機質さこそが、良くも悪くも時代の気配を映し出している。

カツラ美容室別室

カツラ美容室別室
著者山崎ナオコーラ
出版社河出書房新社

あらすじ

高円寺の1DKアパートへ引っ越してきたオレ。その部屋は梅田さんの自宅の近くでもあった。梅田さんの紹介により足を運んだのが「カツラ美容室別室」である。店長の名は桂孝蔵。文字どおり「桂(かつら)」の姓を持ち、さらに誰の目にも明らかなカツラを常用していた。そしてオレは、そこの美容室で働くエリに恋をする。

レビュー

社会とは、無数の大人たちがそれぞれの生活を営み、その過程で偶然出会い、友人関係を築く。しかし、その関係は常に「大人同士の距離感」によって形づくられ、誰もが何らかの役割を演じているようにも思える。それでもその曖昧さで別に良いのだ。と思える作品。

内面・心

蹴りたい背中

著者綿矢りさ
出版社河出書房新社

あらすじ

さびしさは鳴る。高校1年生のハツは、クラスで孤立していた。唯一の友人は別のグループに馴染み、無理に他の子と関わろうとしないハツは孤立を深めていく。そんなある日、同じく浮いた存在の「にな川」と言葉を交わす。不器用で、どこか歪な2人の関係が描かれる。

レビュー

孤立し、外敵から身を守るために研ぎ澄まされていく自意識と感覚。一方、同じような立場のはずの「にな川」は、モデルに夢中で、自意識の欠如すら感じられる。そんな彼に、主人公が抱くのは愛おしさと嫌悪感。言葉にしきれない、繊細で複雑な感情に浸れる1冊。

むらさきのスカートの女

むらさきのスカートの女
著者今村夏子
出版社朝日新聞出版

あらすじ

近所に住む奇妙な女を観察するわたし。この物語はそんな女に対して異常な執着心を持った「わたし」目線の一人称で描かれる。常に監視し続け、哀れみ女に近づこうとするわたし。友だちになりたい。そんな一心で、わたしはその女に手を差し伸べる・・・

ネタバレなしレビュー

自身の異常性には気づかない「わたし」を読者は奇妙に感じるはず。しかし、誰もが「わたし」になる可能性を秘めているのかもしれない・・・

架空の球を追う

架空の球を追う
著者森絵都
出版社文藝春秋

あらすじ

全11作品が収録された短編集。西日が差し込むグラウンドで、野球少年を見守る母親たちは何を想う – 架空の球を追う / 桜の木の前でデジカメを構えると・・・ – チェリーブロッサム / カブトムシだって自由に生きたいでしょ?私はカブトムシを購入して森へ逃がす – 夏の森。など。

レビュー

何かを掴みかけては、すり抜けてしまいそうな・・・。そんな日常の一瞬をすくい取った作品を楽しめる。どこにでもある風景の中で、誰かの心がふっと揺れる。その小さな揺らぎに心を掴まれる。

もう「はい」としか言えない

もう「はい」としか言えない
著者松尾スズキ
出版社文藝春秋

あらすじ

2年間にわたり浮気を続けていた海馬は、ついにその事実が妻にバレる。何とか許しを得たものの、代償として幾つもの厳しい条件を課され、日々は次第に息苦しさを増していく。そんなとき、海馬はパリへ逃れる機会を手にする。飛行機も海外も怖い。しかし妻から距離を置けるという誘惑には抗えない。不安を抱えつつも、フランス語を話せる聖(ひじり)と共に旅立ち・・・

レビュー

全体には軽やかなコメディ要素が漂う一方で、不意に読者の油断を突き刺すような鋭さも備えている。巧みな筆致によって生まれる臨場感。主人公の人間味。そしてどこか憎めない愛おしさを秘めた作品。

ミシンと金魚

著者永井みみ
出版社集英社

あらすじ

本作の語り部は、認知症を患う高齢の女性。病院の帰り道、ヘルパーのみっちゃんから「カケイさんは、これまでの人生を振り返って、幸せでしたか」と問いかけられる。その言葉をきっかけに、彼女は自らの歩んできた人生を振り返る・・・

レビュー

壮絶な人生の記憶と、次々と失われていく今の記憶。思うように動かなくなった身体と、他者の手を借りなければならなくなる老いの現実が切実に描かれる。「生きること」とは何か、「終わりを迎えること」とは何か。そして、その只中に存在する「幸」とは何なのか。1つの人生をここまで端的かつ研ぎ澄まされた表現で描き切った点に圧倒される。

家族・人間関係

星の子

星の子
著者今村夏子
出版社朝日新聞出版

あらすじ

標準体重を下回って生まれ、出生直後から病弱だった娘を救いたい一心で、両親は新興宗教に傾倒していく。やがて「わたし」は小学五年生となるが、両親は相変わらず謎の水を口にして日々を過ごしていた。それでも両親は常に優しく、わたし自身も信仰に疑念を抱くことはなかった。しかし、その信仰心は次第に家族のあり方を変貌させていく…

レビュー

「宗教二世」や「家族」という主題を扱いながら、作中には突如として「世界」が変容する描写が繰り返し現れる。ある瞬間、何気ない日常が一変し、読者自身も同じ感覚を追体験させられる。普通だと信じていたものが、ふいに客観的な視点から異様さを帯びて浮かび上がっていく。

キッチン

キッチン
著者吉本ばなな
出版社幻冬舎

あらすじ

私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。両親を早くに亡くし祖母と同居していた大学生の桜井みかげ。しかし、祖母も亡くしてしまう。孤独な思考の私を守ったのは、冷蔵庫から聞こえてくる、ぶーんという音だった。1人では広すぎる部屋に取り残された彼女は、祖母の馴染みの花屋で働く田辺雄一との縁をきっかけに、田辺家に居候することになる。

レビュー

大切な人を失った絶望感、それでも淡々と続く止められない日々。虚無の中にあってなお、人の優しさや、ささやかな温もりが存在する。再生と成長の光がやわらかく読者の心に差し込む。

冥土めぐり

冥土めぐり
著者鹿島田真希
出版社河出書房新社

あらすじ

奈津子は、かつて裕福な家庭に生まれた。しかし、祖父と父の死、そして弟の借金によって家は没落する。裕福な過去から抜け出せない母と弟は、いまや奈津子の稼ぎを当然のように奪い取る存在となっていた。そんな家族から逃れるように、奈津子は夫・太一とともに、かつて母が誇った高級リゾートホテルへと向かう。その旅の中で、奈津子は失われた時間と記憶に向き合っていく。

レビュー

本書には「冥土めぐり」と「99の接吻」の二作が収録されている。いずれも「家族」という逃れがたい関係を軸に描かれた作品であり、そこには愛と憎悪、依存と断絶が複雑に絡み合う。
その痛みは決して一面的ではなく、光と影を併せ持つものとして描かれる。

スクラップ・アンド・ビルド

スクラップ・アンド・ビルド
著者羽田圭介
出版社文藝春秋

あらすじ

87歳の祖父と暮らす健斗。失業中の彼は、祖父の介護をしながら日々を過ごしている。「早う死にたか」とこぼし続ける祖父に対し、健斗は尊厳死を実現させようと計画を立てる。しかし、その計画を実行に移そうとする過程で、健斗は否応なく自分自身と向き合い始めることになる。

ネタバレなしレビュー

計画を機に肉体を鍛え上げ、弱りゆく祖父と対比して自身の強さを実感し、再び前を向こうとする。筋繊維の破壊と再生は彼の人生と重なり、介護や社会の閉塞感の中で、もがき続ける。

嫌いなら呼ぶなよ

嫌いなら呼ぶなよ
著者綿矢りさ
出版社河出書房新社

あらすじ

全4作品が収録された短編集。私のキラキラをみんなにお裾分け – 眼帯のミニーマウス / バイト先でYouTuberを発見。私が彼を正さなければ – 神田タ / 妻の友達の家へ。そこで行われたのは不倫裁判だった – 嫌いなら呼ぶなよ / ライターと作家が喧嘩。板挟みの編集者は何を想う – 老は害で若も輩

ネタバレなしレビュー

それぞれの作品に登場する主人公たちは、皆それぞれに闇を抱えているものの、その内面は明るくポップな筆致で描かれる。一方で、彼らを取り巻く人々もまた、異なる方向にゆがみを抱えており、それぞれが異なる濃度のグラデーションのように「何か」を抱えている。その在り方には、善悪や正誤といった単純な判断を超えた面白さがある。

終の住処

終の住処
著者磯﨑憲一郎
出版社新潮社

あらすじ

30代で結婚。ささやかながら穏やかな日常を過ごしていた2人の生活は、ある日を境に歪み始める。妻は理由も語らぬまま、夫と口をきかなくなる。それでも生活は続き、歳月は過ぎる。対話のない時間のなかで見えてくるものは・・・

レビュー

事件が起きるわけでも、大きなドラマがあるわけでもない。ただ一緒に暮らすことの意味、すれ違い、そして老いていくこと。そんな当たり前の時間が積み重なるなかに、徐々に追い詰められていく恐怖と孤独がある。

ひとり日和

著者青山七恵
出版社河出書房新社

あらすじ

5歳のときに両親が離婚し、母と2人で暮らしてきた20歳のフリーター・知寿。母が仕事の都合で中国へ渡ることになり、知寿は東京へ移り住む。そこで、母の親戚にあたる71歳の吟子さんの家に身を寄せることに。年齢差51歳。どこかいびつでありながら、どこか温かい。そんな2人が共に過ごす四季と、知寿の成長が描かれていく。

レビュー

主人公・知寿の無気力さと気だるさには、答えの見えない虚無感と、当時の若者を取り巻く空気が滲む。物語は、無理に成長や成功を描こうとしない。それでも生き続けなければならない、そんな諦念と、それに抗おうとするわずかな踏ん張りが胸に残る作品。

きことわ

著者朝吹真理子
出版社新潮社

あらすじ

永遠子は夢を見る。貴子は夢を見ない。七歳差の二人の少女は、毎年夏のあいだだけ葉山の高台にある別荘で同じ時間を過ごしていた。最後に二人が顔を合わせてから、25年という歳月が流れた。永遠子は40歳に、貴子は33歳になっていた。かつて共に過ごした別荘の解体を契機に、二人は再会し、止まっていた時の流れが再び動き始める。

レビュー

文体はつねにひんやりと心地よく、物語そのものがアナログ時計の秒針のように時を刻む感覚を与えてくれる。一方で、未来へ進むはずの一秒一秒が、ときに過去と溶け合う瞬間もあり、時の流れが孕む残酷さと曖昧さが染み渡る。

蛇にピアス

蛇にピアス
著者金原ひとみ
出版社集英社

あらすじ

「スプリットタンって知ってる?」舌先が蛇やトカゲのように二股に分かれた男。そんな男と付き合うルイは、その形状に強く惹かれ、自身もスプリットタンを目指すようになる。舌を割るためにピアスを差し込み、血が滲む。そして彼女は背中に刺青を入れるため、彫師・シバのもとを訪れる。

レビュー

無気力に近い虚無感と、痛みによってようやく得られる「生の実感」。さらに、依存にも似た共鳴によって、自身より大きな何かを呑み込もうとするその姿は、まさに蛇そのもの。どうにもならない現実を前に、どうにかしたいと願いながらも跳ね除ける力がない。その危うさが愛おしい。

青春

ライフ

ライフ
著者小野寺史宜
出版社ポプラ社

あらすじ

会社を2度辞め、現在はコンビニでアルバイトをしている27歳の井川幹太。大学時代から変わらず住み続けているワンルームのアパートには、余計なものは何一つない。自分ひとりで生きていくには、それで十分だった。大学時代の友人たちが次々と去り、静かだった日常。しかしある日から、真上の部屋に越してきた「がさつくん」の物音に悩まされるようになる。ところが、その騒がしい隣人との出会いをきっかけに、幹太の人生は少しずつ動き出していく。

レビュー

誰にも頼らずシンプルに生きることこそ自分に合っていると思っていた幹太。だが、ひょんなことからアパートの住人たちと関わりを持ち、彼らの人生に触れていく中で、自身の価値観や生き方が変わっていく。大きな事件も派手な展開もない。けれども、読み終えたあとに心に響く何かが残る。

ぼくはきっとやさしい

ぼくはきっとやさしい
著者町屋良平
出版社河出書房新社

あらすじ

受験を控えた冬の日、僕は机に突っ伏す冬美に恋をした。そして彼女と同じ大学へ進学する。それから、僕は海に落ちた。あまりにも無気力で、どこまでもピュアな青年・岳文(たけふみ)は、その心の揺れを日記に綴っていく。

レビュー

純真無垢な主人公は、あまりにも真っ直ぐで、不器用に生きている。ただ、そのことに本人は気づいていないのかもしれない。まるで、純粋な子どもだけが時間の流れに取り残され、周囲だけが大人になってしまったかのよう。それでも、そんな彼に不思議と共感してしまう自分がいる。

しき

しき
著者町屋良平
出版社河出書房新社

あらすじ

踊ってみた動画に影響され、夜の公園でひとりダンスの練習を続ける高校二年生の星崎。特別に興味を持つものも、目指すべき将来像もない。ただ下手ながらも、ひたすらに踊りを磨こうとする日々が続く。

レビュー

言葉にしがたい独特の世界観と空気感。無気力と焦燥が同居する学生特有の揺らぎ、先の見えない未来を探りながら今を生きようとする感覚が鮮やか。読み進めるうちに、学校の匂いまで思い出させられるような、青臭くも美しい。

生まれる森

生まれる森
著者島本理生
出版社KADOKAWA

あらすじ

あの人と出会い、深い森に落とされたようなわたし。別れた今もなお、その森を彷徨い続けている。大学の夏休みの間、友人の家を借りて過ごすことに。友人は実家へ帰省し、わたしは実質ひとり暮らし。そんなある日、忘れられないあの人の面影に囚われていたわたしのもとに1本の電話が届く。高校時代の友人・キクちゃんからの誘いで、彼女の家族とともにキャンプへ出かけることになった。

レビュー

この物語に登場する人々は、それぞれが心の「森」を抱えている。その森とは、喪失や虚無の象徴であり、容易には抜け出せない暗がりでもある。けれども彼らはその中で、もがきながら生きようとする。そんな姿に、そんな作品に心を惹かれる。

あの子の考えることは変

あの子の考えることは変
著者本谷有希子
出版社講談社

あらすじ

胸の大きさを誇りとして生きる、23歳のフリーター・巡谷。彼女と同居しているのは、学生時代からの仲であり、自身の体臭を病的に気にする無職の女・日田。彼女は、手記家を目指して上京してきた。どこか抜けていて奇人めいた日田を、巡谷は誰より理解していた。しかし彼女自身もまた、抱えた問題を隠しきれずにいる。東京という舞台で、消え入りそうになりながらも2人は支え合い生きていく。

レビュー

登場する2人は、それぞれに痛みと脆さを抱えながら、遠慮のない言葉で互いを刺し合う関係性にある。ダサくて、イタくて、いびつ。しかし物語は終盤で一気に突き抜け、まるで澱を振り払うように爽やかな余韻へと昇華していく。

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星の子
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著者今村夏子宇佐見りん村田沙耶香高瀬隼子小野寺史宜津村記久子町屋良平綿矢りさ永井みみ今村夏子
出版社朝日新聞出版河出文庫文藝春秋講談社ポプラ社講談社河出書房新社河出書房新社集英社朝日新聞出版

1位:むらさきのスカートの女

むらさきのスカートの女

著者

今村夏子

出版社

朝日新聞出版

テーマ

内面・心

感情

奇妙・内省

近所に住む奇妙な女を観察するわたし。この物語はそんな女に対して異常な執着心を持った「わたし」目線の一人称で描かれる。常に監視し続け、哀れみ女に近づこうとするわたし。友だちになりたい。そんな一心で、わたしはその女に手を差し伸べる・・・

おすすめポイント
  • 普段純文学作品を読まない人でも読みやすい
  • 読み終えたあと考察したい人におすすめ
  • 物語に展開を求める人におすすめ

2位:推し、燃ゆ

推し、燃ゆ

著者

宇佐見りん

出版社

河出文庫

テーマ

社会・生き方

感情

虚無感・余韻

何もかもが上手くいかない。高校生のあかりは、不器用に日々を生きていた。そんな彼女が心の拠り所としていたのは、アイドル・上野真幸の存在。彼を「推し」として、生活のすべてを捧げていた。ところがある日、真幸が暴力事件を起こし、炎上する。そこからあかりの世界は揺らぎ始め・・・

おすすめポイント
  • 普段純文学作品を読まない人でも読みやすい
  • 現代のテーマを扱った作品を読みたい人におすすめ
  • 読み終えたあと余韻に浸りたい人におすすめ

3位:コンビニ人間

コンビニ人間

著者

村田沙耶香

出版社

文藝春秋

テーマ

社会・生き方

感情

内省・倫理観・価値観

「普通の生き方」に馴染めない36歳の古倉恵子。彼女にとって、マニュアルどおりに動くことで社会の一部になれるコンビニは、唯一自分らしく生きられる場所だった。しかし結婚や就職といった「正しさ」を求める周囲の声に揺れ始める。誰のために生きるのか。「普通」とは何かを問いかける。

おすすめポイント
  • 仕事や職場を扱ったモノを読みたい人におすすめ
  • 生き方や価値観を見つめ直したい人におすすめ
  • 読み終えたあと余韻に浸りたい人におすすめ

4位:おいしいごはんが食べられますように

おいしいごはんが食べられますように

著者

高瀬隼子

出版社

講談社

テーマ

社会・生き方

感情

倫理観・共感

職場で要領よく馴染む二谷。常に周りから配慮され続ける芦川。仕事に真面目に取り組む押尾。3人の登場人物を中心に繰り広げられる人間模様は「食」を通して描かれる。みんなで食べるとおいしいのか?おいしいものは、みんな嬉しいのだろうか?

おすすめポイント
  • 仕事や職場を扱った題材を読みたい人におすすめ
  • 生き方や価値観を見つめ直したい人におすすめ
  • 読み終えたあと考察したい人におすすめ

5位:ライフ

ライフ

著者

小野寺史宜

出版社

ポプラ社

テーマ

青春

感情

爽やか・希望

会社を2度辞め、現在はコンビニでアルバイトをしている27歳の井川幹太。大学時代から変わらず住み続けているワンルームのアパートには、余計なものは何一つない。自分ひとりで生きていくには、それで十分だった。大学時代の友人たちが次々と去り、静かだった日常。しかしある日から、真上の部屋に越してきた「がさつくん」の物音に悩まされるようになる。ところが、その騒がしい隣人との出会いをきっかけに、幹太の人生は少しずつ動き出していく。

おすすめポイント
  • 心が軽くなれるような作品を探している人におすすめ
  • 物語に展開を求める人におすすめ
  • 自意識や内面の揺らぎ、葛藤や成長などを読みたい人におすすめ

6位:ポトスライムの舟

ポトスライムの舟

著者

津村記久子

出版社

講談社

テーマ

社会・生き方

感情

価値観・希望

工場で働くナガセは、壁に貼られたポスターに目を留める。そこには「クルージングによる世界一周旅行」とあり、金額は163万円。偶然にもそれは、ナガセが1年間働いて得る年収と同額だった。生命を維持するための労働の対価が世界一周に匹敵することに気づいたナガセは、旅に出るため貯金を始める。久しぶりに、生きている実感を取り戻す旅でもあった。

おすすめポイント
  • 仕事や職場を扱ったモノを読みたい人におすすめ
  • 心が軽くなれるような作品を探している人におすすめ
  • 読み終えたあと一歩を踏み出せるような気持ちになれる

7位:ぼくはきっとやさしい

ぼくはきっとやさしい

著者

町屋良平

出版社

河出書房新社

テーマ

青春

感情

共感・ユーモア

受験を控えた冬の日、僕は机に突っ伏す冬美に恋をした。そして彼女と同じ大学へ進学する。それから、僕は海に落ちた。あまりにも無気力で、どこまでもピュアな青年・岳文(たけふみ)は、その心の揺れを日記に綴っていく。

おすすめポイント
  • 普段純文学作品を読まない人でも読みやすい
  • 自意識や内面の揺らぎ、葛藤や成長などを読みたい人におすすめ
  • 物語に展開を求める人におすすめ

8位:蹴りたい背中

著者

綿矢りさ

出版社

河出書房新社

テーマ

内面・心

感情

共感・内省

さびしさは鳴る。高校1年生のハツは、クラスで孤立していた。唯一の友人は別のグループに馴染み、無理に他の子と関わろうとしないハツは孤立を深めていく。そんなある日、同じく浮いた存在の「にな川」と言葉を交わす。不器用で、どこか歪な2人の関係が描かれる。

おすすめポイント
  • 学校や学生といった題材を扱った作品を読みたい人におすすめ
  • 自意識や内面の揺らぎ、葛藤や成長などを読みたい人におすすめ
  • 読み終えたあと考察したい人におすすめ

9位:ミシンと金魚

著者

永井みみ

出版社

集英社

テーマ

内面・心

感情

内省・余韻

本作の語り部は、認知症を患う高齢の女性。病院の帰り道、ヘルパーのみっちゃんから「カケイさんは、これまでの人生を振り返って、幸せでしたか」と問いかけられる。その言葉をきっかけに、彼女は自らの歩んできた人生を振り返る・・・

おすすめポイント
  • 生き方や価値観を見つめ直したい人におすすめ
  • 人の一生を見つめ直したい人におすすめ
  • 読み終えたあと余韻に浸りたい人におすすめ

10位:星の子

星の子

著者

今村夏子

出版社

朝日新聞出版

テーマ

家族・人間関係

感情

価値観・余韻

標準体重を下回って生まれ、出生直後から病弱だった娘を救いたい一心で、両親は新興宗教に傾倒していく。やがて「わたし」は小学五年生となるが、両親は相変わらず謎の水を口にして日々を過ごしていた。それでも両親は常に優しく、わたし自身も信仰に疑念を抱くことはなかった。しかし、その信仰心は次第に家族のあり方を変貌させていく…

おすすめポイント
  • 生き方や価値観を見つめ直したい人におすすめ
  • 物語に展開を求める人におすすめ
  • 読み終えたあと考察したい人におすすめ

純文学とは

純文学の定義は人によって異なるものですが、当サイト「YOMUDAKE(ヨムダケ)」では、以下のような基準で紹介しています。日々続いていく何気ない日常を描きながらも、人間の思考・思想・葛藤といった内面に深く迫っていること。

そして、作品そのものに明確な結論があるのではなく、読者が自由に意味を受け取り、解釈できる余白があること。

そうした要素を備えた作品を、純文学と捉えています。

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